1 機能性高分子を用いた新しい分離システムの開発


温度やpHなどの環境変化を自ら認識し応答する高分子(環境応答性高分子)を分子設計し,HPLCの充填剤に応用することにより外部環境により分離の制御を行う環境応答性クロマトグラフィーを実現した。現在広く用いられている逆相系HPLCでは,C18などの疎水性の固定相に,有機溶媒を含む水溶液を移動相として分離を達成している。我々は,これまで機能性高分子を用いた分離担体で外部からの温度変化で親水性分離と疎水性分離の両方を行うことができる全く新しい概念の温度応答性クロマトグラフィーを実現し,医薬品やアミノ酸など様々な物質の分離に成功した。移動相を変化させて分離を行う従来法と大きく異なり,温度等により固定相表面の性質を大きく変化させ,水系移動相のみで分離の最適化を行う新しい発想に基づく分離システムである。


  1. Temperature-Responsive Chromatographic Separation of Amino Acid Phenylthiohydantions using Aqueous Media as the Mobile Phase. Anal Chem., 72, 5961-5966 (2000).  
  2. Temperature-Responsive Chromatography Using Poly(N-isopropylacrylamide)-Modified Silica. Anal. Chem., 68, 100-105 (1996). 
  3. Thermally Responsible Chromatographic Materials using Functional Polymers. J. Sep. Sci., 30, 1648-1656 (2007). WILEY-VCH  
  4. Development of Novel Thermally Responsible Separation Systems using Functional Polymers. Chromatography, 30(1), 1-9 (2009). 

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生体内薬物濃度測定への応用

京都大学霊長類研究所と共同研究でサルにおける麻酔薬プロポフォールの経時的な血中濃度測定に応用した1)。プロポフォールは,最近死亡したアメリカの有名歌手の常用で話題となったが,脂溶性が高い超短時間作用型静脈麻酔薬であり,効果発現時間が早く,作用時間が短く覚醒が速いといった特長がある。急速に代謝されることから蓄積性が低く,持続投与が可能となり,全静脈麻酔にも用いられる。現在最も繁用されている静脈麻酔薬のひとつであるが,個々の患者の状態や外科的刺激の強さに応じた用量設定のため薬物治療モニタリング(TDM)を行う必要がある。プロポフォールの術中でのリアルタイムモニタリングが望まれるなか,従来の測定法では移動相に有機溶媒を使用した分析系で煩雑な操作を必要とするほか,プロポフォールの用途は主に術中であることから,従来法による分析では術中での使用による患者への有機溶媒暴露,廃液処理等が問題となる。本研究により温度応答性クロマトグラフィーを用いて,プロポフォールの血中濃度測定が水のみの移動相で蛍光検出により高感度で行えることが確認された。本システムは移動相に有機溶媒を使用せずに温度制御で分析の最適化が図れるため,蛍光検出器を用いた分析での有機溶媒によるバックグラウンドを抑制した定量分析が可能であった。水のみの移動相により求めた血中濃度推移はODSカラムによる結果及びTCIシミュレーションの結果と一致していた。本システムの血中濃度測定への有用性が示唆され,医療現場での水のみの移動相による簡便な血中濃度測定が期待できる。

  1. 1)Tadashi Nishio, Rie Suzuki, Yuko Tsukada, Hideko Kanazawa, Teruo Okano, Takako Miyabe-Nishiwaki, Aqueous chromatographic system for the quantification of propofol in biological fluids using a temperature-responsive polymer modified stationary phase, J. Chromatogr. A, 1216, 7427-7432 (2009).